生成AIは学びの生産性を上げるのか
生成AI、ChatGPTの登場で人々の生産性が向上すると話題になっている。実際、ChatGPTに依頼することで効率化することは多々ある。
ただ個人の学びの生産性向上、効率化には生成AIがどれほど寄与できているのだろうか。もしくはどのように生成AIを使えば学びの生産性が向上するだろうか。
自分の中では調べればわかる、ちょっと時間があれば作れるわっていうものを生産したい場合は大いに役立つが、本当に価値ある知的生産物、他の人がまだ作ってないものを作る時にはあまり貢献できてないように感じる。
本記事では生成AIをどのように使えば学びの生産性が向上するのかを考察する。
この記事で扱う学びはエンジニアで先端領域を学ぶことを意識してるのでその点は留意して読んでください。
学びの生産性がなぜ重要か
生産性が高いに越したことはないでしょう。
特にAIのような先端領域に関わるエンジニアにはもはや学びの生産性向上は最重要課題といっても過言ではない。
エンジニアは学び続ける必要があるとはよく聞く話だ。この話題には様々な意見がありますが、学ぶことを迫られている、学ぶことについて真剣に考える人がエンジニアに相対的に多いのは事実だと思う。
新しい技術や知識が次々と出てくる領域であるエンジニアリングでは、それを学び、仕事に活かすことが個々の評価に直結しやすい(なので最新技術を学ぶモチベになる)。
とりわけ生成AIが登場してからというもの学ぶべき内容がどんどん増加しているように感じる。この分野で最新の情報をキャッチアップして、自身の道具として使いこなせるようにアウトプットし、最前線の戦力として活躍し続けるにはそれなりの時間が必要となります。
そのため、より多くの学習時間を確保するためには生産性の向上が欠かせません。
ChatGPTが向上させている人々の生産性とは
ここで一度ChatGPTが人々のどんなことを助けているのか、ChatGPTが向上させている生産性がなんなのか考えます。
私見ですが、ChatGPTでよく使われている機能はわからない事柄の質問、翻訳、要約、コード生成、文章構成、グラフ生成、簡単な計算、画像生成などでしょうか。
たしかに今あげたことがChatGPTを使うことで、本来は使い方などをいろいろ調べた上で手を動かさないとできなかったことが一足飛びでできて生産性が上がりそうに思います。
一方で「学び」という観点ではどうでしょうか。コード生成、グラフ生成などは学び目的というより、何かのアウトプット・成果物を作成する過程の補助
エンジニアの知的生産術における「学び方」
学びの生産性の話をしする前にまずは「学び方」について考えてみます。
「学び方」に関しては私がものすごく参考にしている西尾さんのエンジニアの知的生産術で書かれている定義がしっくりくるので紹介します。
この本で学び方は以下のように定義されています。
情報収集から始まり、その集めた情報を自分なりに抽象化(モデル化)していく。その上で得られた知識と理解によって実践・検証を行うことである事柄を学ぶことができるというものです。 このサイクルを書籍では集めた情報を箱に見立てて理解が進むと表現していました。情報収集した量が少なかったり並べ方が下手くそだと上に箱を積み上げていくことは難しくなります。 サイクルの最後の要素である実践検証は箱を並べる例の奥行きに該当すると本では書かれています。これは試行錯誤の過程は外からは見えないということを意味しています。
そしてイメージ図では四角いブロックで表現されていますが、実際は一つの一つのブロックは歪な形でそれぞれ同じ形をしているわけではないと書かれていました。
つまり最終的に学んだ後に得られるものは先ほどのイメージ図で考えるなら、さしずめ歪な構成要素を緻密に組み合わせた構造物といった感じでしょうか。
ここから学びの生産性とはいかに短い時間でたくさんの価値ある学びの構造物を作るかと捉えることができます。
本ではプログラミングを学ぶことを例に挙げられており、自分は非常に共感を覚えました。ただこのサイクルはプログラミング以外にも共通だと思います。
この学びのサイクルは自分の経験と照らし合わせても正しいと思っています。う〜んあらためて読んでも西尾さんの言語化能力の凄まじさを感じる。。
生成AIは学びの生産性を上げるのか
さて、いよいよ本題について考えていきます。
先ほどの学びのサイクルで生成AIはどこに寄与できるでしょうか。
情報収集を行うステップ1の寄与度はあまり高くないとおもいます。この段階では情報の量を増やすことが大事ですが、人間側がインプットできる量は結局読むスピード・使える時間で決まるのでChatGPTでは増えません。探す効率はもしかしたら良くなるかもしれませんがあまり本質ではない気がします。
次は情報を並び替えて抽象化・モデル化を行うステップです。ChatGPTが効力を発揮するのはこの段階でしょう。
インプットした情報の関連性や疑問点を尋ねることで頭の情報整理が効率化できます。
学習時によくあるのが、本を読んだ段階では理解度はあまり高くないことです。
分野や目的によって生産性が上がるのは事実でしょう。学びのサイクルの例で言うならブロックの並べ方を考えたり調べたりする手間が大幅に削減されるイメージでしょうか。
分野や目的によって生産性が上がるのは事実でしょう。学びのサイクルの例で言うならブロックの並べ方を考えたり調べたりする手間が大幅に削減されるイメージでしょうか。
例えば英語の学習や基本的な数学などに関しては、わからないことを次々に聞けるのでChatGPTでかなり生産性が向上すると思います。基礎的な領域であればあるほどChatGPTの効果はすごいです。
また分野によらず成果物の形が明白であり、その材料も揃っていてあとは手を動かすだけのような単純なアウトプットにも効果を発揮します。
しかし、全てに関して同様のことが言えるかというとそうではないと最近は感じています。特に自分の仕事や仕事に関する学習についてはあまり生産性に寄与しているように感じません。 自分の仕事について考えると、英語の記事の翻訳するとか、ちょっと調べればわかることをさっとChatGPTに聞いて解決することはよくあります。 ただインプットした情報をもとに望んだアウトプットを自分の頭の中で整理して文章を考えて、最終的な成果物を作るような場合にはあまり生成AIは寄与できてないように思います。
寄与できていないのはなぜか。
それは大規模言語モデルの学習データに含まれていないようなアウトプットを作ろうとしてるから、そして何より自分が望むアウトプットを言語化できてないからだと思います。
先ほどの英語や数学の場合はわからないことがかなり具体的なことが多いのではないでしょうか。単語の意味、文法の使い方、与えられた数式の計算方法など。
アウトプットの形を生成AIに提案させることはできます。よくあるプロンプトに記事やスライドのアウトラインを考えてというものやマインドマップを作成させるものがあります。 正直このアウトラインが自分の望む以上のものだった感覚はほとんどない。自分の望む形をちゃんと伝えられてないんだから望む形が出てこないのはしょうがない。自分の頭の奥で言語化できてないところまでChatGPTがよしなに出力してくれるわけではないのだ。
「学び」とはまさにそういう領域であると思う。自分が具体的に何を学びたいのかが具体的になっていれば「学び」の生産性とかにそもそも悩まないのではないだろうか。 知りたいことがわかっているならググればいい。ただ一般的に難しいとされる「学び」はもっと抽象的なことを考えているのだと思う。
例えば「ITについて学びたいんです」と言われたらまずは概要がわかる広く浅くITについて書かれた書籍を薦めると思う。一方で「Next.jsで作ったフロントをAzureにデプロイしたいんです」と聞かれたらそもそも調べれば出てくるような話になってくる。
先ほどの例で前者は自分が何を知りたいのか漠然としているが、後者はかなり具体的という違いがある。
調べること(学びたいこと)が明確なら困らない。問題は明確じゃない場合で、そうなるとまず何を調べたいのかを明確にしていく必要がある。この何を知りたいのか明確にする作業に関してはChatGPT以外の方法のほうが合っていると最近は思う。
大事なのは生成AIではなく自分で考えて作るべきものは何かの線引きではないだろうか。言い換えると何を生成AIにやらせるべきかを考えることである。
生成AIをどのように活用すれば学びの生産性を上げられるのか
結局、まずは自分の頭の中を整理して言語化していくことが重要だと思う。生成AIで効率化できるのは学びのサイクルではなく、得られた学びを道具として何か作る時なのかもしれない。
生成AIの出番は、知りたいことが具体的になった段階で聞く、アウトプットがある程度仕上がった後のレビューや校正といった作業が適しているように思う。
自分の頭で言葉で考えなくてはいけないところはどこか、生成AIに何をやらせるべきかを明確に持つことが重要。
具体的な生成AIの活用方法
今回はNotion AIを例に活用方法を考える。ChatGPTでないのは文章のアウトプットに関してはNotion AIの方が使いやすいからだ。 ちなみにNotion AIは有料機能。
Notion AIでよく使うのは以下
- 翻訳
- Q & A機能によるNotion内検索と回答
- 誤字脱字検出
- 微妙な文章の修正案の提示
- 内容のレビューとして理解できたところと疑問点の書き出し
Notion AIには他にも自動タグ付けや自動要約、文章の続きを考えさせる、サブタスク化など便利な使い方がいくつかあるがあまり使わない。
Notion AIが出た当初やSNSで話題になった機能とかは一通り試してみてるが、頻繁に使っているとか明らかに生産性が爆発的に上がったというものはない。もちろん自分が便利な使い方を知らないだけの可能性はあるし、そもそも人によってNotionをどんな目的で使っているかは異なるので一概には言えないということは書いておく。
ただ少なくとも「学び」というサイクルにおけるアウトプットの形成には生成AI機能があるなしはあまり関係がないと思う。
ということで具体的な使用場面と生成結果をいくつか紹介する。
Q & A
ChatGPTが持っている知識は学習時点のデータで止まっていることはよく知られています。この問題を回避するためにweb検索機能やRAG(Retrieval Augmented Generative)があります。
NotionのQ&A機能はRAGに該当します。
特徴はNotionに存在するデータに基づいて回答してくれることです。
自分の場合、NotionにはSNSや検索で得た役立ちそうなWeb記事や自分の考えなどをまとめたものを保存しています。
Notion Q&Aを使うと自分が厳選した情報や自分の書いた文章に基づいた回答を生成してくれるので、回答の納得感がChatGPTと全然違います。
また、回答と一緒に回答に使用したページも提示してくれるので情報元の確認も容易です。
以下はNotion Q&AでLangGraphについて尋ねた例です。
ChatGPTの場合はこちら
ChatGPTの場合は全然意図した内容になってないです。ただこのあとChatGPTにweb検索を使ってやり直せと言ったら正しい回答を持ってきました。
Notion Q&Aのいいところは自分が一度読んだり書いた内容に基づいて回答してくれるので、自分で思い出す感覚に近い体験になることです。 新しく記憶するより、思い出した方が認知不可が少ないので良いなと思ってます。
誤字脱字検出
記事レビュー
なので生成AIを学びに活用する際はあくまでインプットの補助であったり、アウトプットの仕上げくらいに使えるくらいに思っておくのが良さそうである。
結局根幹となる自分の頭の整理は自分でやるしかない。
学びたいこと、アウトプットの形を具体的に言語化するための方法
いまのところ手書きで書き出していくのが一番しっくりきている。デジタルツールで色々書き出したり、ChatGPTに壁打ちをしてもらったりしてるが、まずは付箋とかの紙に書くのが一番効率がいい。
一見アナログのやり方に見えるが本当に一番効率がいい。
付箋で書かれた内容を並び替えたり、書き足したりすることですごく脳がクリアになる。Miroとか使えばいいじゃんと思うかもですが、やはりタイピングするんじゃなくて手で書くことに何かよくわからない作用がある気がします。
なんだろう、やっぱり人間の脳とか体は物理的なものだからパソコンの中がどう便利になろうと変えられない領域があるのだろう。
感想
久々に長い文章を時間をかけた描いた気がする。言語化作業は日々行なって鍛えていかないとダメだと痛感する。